靴磨きをされる方であれば利用することが多いのが革靴のクリーナーですよね。
革靴のクリーナーを利用するかしないかは賛否両論ありますが、基本的には汚れや古くなったクリームを落とすことができるということで活用されるケースがほとんどです。
そんな革靴クリーナーですが、あなたは正しく利用できていますか?クリーナーは正しく利用できれば効率よく靴汚れを落とすことができる素晴らしい製品ではあるものの、使い方を間違えている方はかなり多いです。使い方を間違えれば革を傷めてしまうなど逆効果なのです。
こと、靴磨き初心者やあまり靴磨きの勉強をしないまま靴磨きを続けている方はほぼ100%間違えていると言ってよいでしょう。そこで今回は
・革靴クリーナーの役割とは?
・革靴クリーナーが汚れを落とす仕組み
・革靴クリーナーで失敗しない、正しい使い方
この3点を中心にお話しします。
革靴クリーナーの役割とは?
革靴には普段から履いている際に付着した汚れや、以前に靴を磨いたことがあるのであれば合わせて古いクリームが表面に乗っかっています。
↑このように、片方の靴だけでも古いクリーム・ワックスは大量に乗っているのだ。
表面についた砂やほこりなどであれば馬毛ブラシによるブラッシングで簡単に落とすことが可能なのですが、それでは落ちない汚れや古いクリームを落とすのがクリーナーの役割となるわけです。
汚れや古いクリームの上から再度新しいクリームを塗れば良いのではないかという疑問が当然生まれると思うのですがそれは間違いです。
汚れや古いクリーム・ワックスなどの上から靴磨きをすると表面上はきれいになるのですが、その下の層には汚れや古いクリームが残っているため結局はそれらを隠した応急処置にしかなりません。
また、汚れや古いクリームのさらに下の層には革表面があるわけですが、一旦汚れ・古いクリームの層を落としてあげなければ十分に栄養分を革表面に入れることができません。結果的にひび割れや革の乾燥につながり、履きにくいだけでなく、革靴を長持ちさせることが困難となります。
クリーナーには栄養の浸透力を高める効果も
さらにクリーナーを利用するメリットとしては、栄養分の吸収率を上げるという効果も存在します。クリーナーを利用すると革表面に付着している汚れや古いクリームの層を落とすのと同時に、革内部に含まれている油分なども合わせて取ってくれることがほとんどです。
一度革内部に浸透していた油分が抜けて栄養を欲する状態となりますので、次に塗り込む栄養クリームなどが何もしないまま塗るときと比べてすんなり浸透してくれるようになります。
人間の肌で例えると
1.洗顔
2.化粧水
3.乳液
というように、一度洗顔でいろいろと落とした状態から栄養分を入れるのと似ています。
洗顔をした後は何となく肌が突っ張るような感覚があると思うのですがそれは肌に含まれる油分などが石鹸などで抜けている為です。そのあとは化粧水や乳液などを塗るわけですが、洗顔をしてない場合と比べ、した際のほうが吸収力が高いと感じるはずです。
これは動物の革を扱っている以上靴磨きも同じなのです。
また、靴の色が抜けている場合などはあらかじめ洗浄力強めのクリーナーを入れるとクリームに含まれる染料が革内部に吸収されやすくなるため、補色効果を強める役割も果たします。
革靴クリーナーが汚れを落とす仕組み
クリーナーには主に次のような成分が含まれているケースが多いです。
・有機溶剤
・界面活性剤
・油脂
これらを水に溶いたものがクリーナーとなります。
クリーナーの仕組みというのは同じ成分をぶつけることによって中和させ、付着した汚れや古いクリームを浮かせることにあります。
例えば、油性マジック等を消す際には除光液などが用いられますが、その除光液の成分はアセトンと呼ばれる揮発性の有機溶剤が用いられます。油性のマジック成分も同じく有機溶剤である為相殺され、黒い成分が溶かされてなくなるという仕組みになっています。
靴クリームの場合には、成分が主に有機溶剤と油脂によってできている為、同じ成分が含まれたクリーナーを塗布することで汚れを浮かせる役割をになっているわけですね。
また、それらの成分に合わせてクリーナーには界面活性剤が含まれています。界面活性剤とは油と水分を合わせる役割を持つ成分。これによってクリーナーは通常水とはなじまない油分や有機溶剤を組み合わせることに成功しているわけです。そのほか、界面活性剤によって洗浄力のアップが多少見込まれるようになっています。
クリーナーを塗るだけでは靴はきれいにならない。
汚れや古いクリーム成分を浮かせてくれる役割を持つ革靴のクリーナーですが、実際にはこれらを塗布するだけでは靴の汚れを落とすことはできません。
靴がきれいになる仕組みは次のようになっています。
1.クリーナーを布に染み込ませる
2.その布で靴をさする
3.クリーナーのおかげで浮いた汚れが布に移る
4.革靴表面がきれいになる
クリーナーと聞くと、塗れば塗るほどきれいになっていくように勘違いしてしまいがちなのですが、実際にはそうではありません。
洗剤などをイメージするとわかりやすいのですが、泡立てたスポンジで食器を洗った段階ではきれいになっていませんよね。汚れは確かに浮いているのですが、水で洗い流して初めてきれいな食器になります。
それと同じで、クリーナーを革靴に塗布することが重要なのではなく、クリーナーで浮いた汚れを布に移しとる作業が需要となるのです。
クリーナーを付けた布で汚れた革靴を少しさすっただけで簡単に汚れは布に移り変わります。そのため、ふき取った後は布の場所を変えて、汚れていない部分で再度ふき取りを繰り返さなければきれいにすることはできません。
クリーナーごとに洗浄力が異なるのはなぜか?
革靴のクリーナーは、靴磨き用品メーカーごとに様々な製品が販売されています。基本的な仕組みが同じにもかかわらず洗浄力が強い製品があったり、革に負担をかけにくい成分があったりするのはなぜなのでしょうか。
クリーナーの洗浄力というのは主に次の3つのポイントによって決定します。
・成分配合
・成分内容
・PH値
まず、成分配合と内容についてです。製品によって有機溶剤や油脂の配合率が高い製品もあれば、水の多い配合となっているケースも存在します。これらの配合率は各社ブラックボックスとなっている部分なので具体的なことはわかりません。
クリームにも有機溶剤が多い製品や油脂が多い製品、蝋成分が多い製品などによって特性が大きく異なるように、そのあたりはクリーナーも変わりません。汚れ落としは下地部分のようなものなので、パット見た感じは大きな変化はわかりにくいですけどね。
また、有機溶剤や油脂と言っても様々な種類が存在します。有機溶剤と言ってもその種類は無数にありますし、油分も動物系のものから植物系のものまで様々です。オリーブオイルと馬油ぐらい違います。
最後にPH値に関してですが、PH値とはいわゆる酸性やアルカリ性などを示す値のことを指すのですが、PH値が違えば分解できる成分が異なってきます。
一般的には
・酸性→無塩基の分解が得意
・中性→油脂の分解が得意
となっています。
革靴のクリーナーそれぞれPH値が若干異なるので、それらの違いがクリーナーの特徴・洗浄力を変化させていると言えるでしょう。
ちなみにですが、弱酸性→中性→アルカリ性の順に革にダメージを与えにくくなっています。特にアルカリ性のものは革表面にダメージを与えやすい性質をもっている為、近年高級靴に用いられる繊細な革やアニリン仕上げとは相性があまりよくない傾向にあります。
もちろん弱酸性だから良い、アルカリ性だからダメだというわけではなく、汚れの状態によって使い分けるのが賢い活用方法になるのですが、クリーナーに関しては日常から利用するものですので、弱酸性や中性を利用するようにすると間違いないと言えるでしょう。
革靴クリーナーで失敗しない、正しい使い方
靴磨きでは主に鏡面磨き仕上げなどが難しいため練習される方が多いのですが、クリーナーを使った汚れ落としは何となくできているような気がするためそれほど練習されないケースが多いです。
しかし、クリーナーでしっかり汚れや古いクリーム・ワックスを落とさないことには新しく入れるクリーム成分が均等に浸透させることができず、ひび割れや色ムラの原因となってしまうケースが多いのです。
特に初心者には注目されにくい革靴クリーナーの使い方や練習方法ですが、実際には重要でかつ、難しい工程の一つなのです。ちなみに、クリーナーによって引きおこす可能性がある革靴のトラブルは次の通りです。
・色抜け
・革が傷む
・水シミ
・色ムラ
・ひび割れ
初心者にありがちなミスとは。
革靴のクリーナーを利用するにあたり、犯しやすいミスは次の通りになります。
・クリーナーを塗りすぎる
・革靴をさすりすぎる
・クリーナー不足等の理由でで落とせていない
・一定の部分しか落とせていない
まず、クリーナーの塗りすぎについてです。少し前でも紹介した通りクリーナーの役割はあくまで汚れを浮かせることにあり、クリーナーを革靴に塗布すること自体はあまり意味がありません。
それどころがクリーナーを塗りすぎると水分過多となってしまい繊細な革や色の薄い革靴の場合にはシミを作ってしまう可能性もあります。
次に、革靴のさすりすぎになります。クリーナーがついた布で靴表面をさすりすぎると、表面に残っている汚れや古いクリームのみならず、革内部に含まれている染料や油分なども一緒に抜きすぎてしまうケースがあります。
結果、革表面が荒れてしまったり色抜けを引き起こしてしまうことにつながります。
次はクリーナー不足等の理由で落とせていないケースです。何となくクリーナーを布につけてさらっと拭いただけで汚れが落とせたと勘違いしているケースです。
革に付着している汚れや古いクリームの量によってふき取るべき量は異なります。さらっとふき取るだけで良いケースも当然ありますが、そうでないケースも存在します。靴に合わせてこれらを調節しなければなりません。
また、クリーナーでふき取る際に布の位置を変えずに行っている場合でも同様に、表面汚れを落とせないケースがあります。
最後は一部分しかふき取れていないケースです。人間というのは無意識のうちに一部分だけを丁寧に作業してしまうケースがあります。前面をまんべんなく拭けているように思っていても実際にはつま先だけが丁寧に拭かれていて、サイドやかかと部分は中途半端に仕上がっているケースがあります。
これは人間であればだれでも起こりうるミスである為、意識して均等に汚れ落としができるようにしなければなりません。
クリーナーの基本的な使い方
クリーナーの基本的な使い方を改めて説明したものが次の通りになります。
1.鏡面磨きをしていないか調べる(している場合はまず鏡面を落とす)
2.布にクリーナーを少量とる
3.革靴をふき取る
4.布に汚れが落ちる
5.布の位置を変える
6.2~4を繰り返して全体の汚れ・古いクリームを落とす。
まず最初に行うのは鏡面磨きが行われているかどうかになります。クリーナーは基本的に汚れや古いクリームを落とすことを想定して作られているため、ワックスなどで鏡面になるまで磨きこまれた層を溶かす作業は向いていません。
そのため、鏡面磨きが行われていた場合には鏡面磨きを落とす専用の製品などを利用して、まずはそれらを落とすところから始めましょう。そちらに関しては下記のページにて紹介しています。
これらが落とせたらクリーナーを利用して全体の汚れとクリームを落としていくのですが、ポイントとしては布に取るクリーナーの量はほんの少量であること。
まずは布を指に巻き付け、
クリーナーが出る部分を布を巻き付けた指で押さえ、上に1~2振り程度した際にとれる量がベストな量です。あれ、こんなに少ないのかと思われるかもしれませんが、これだけで十分すぎます。
ちなみにこれぐらい取れます。ほんのりと布が湿る程度です。
垂らすようにしてクリーナーをとると、取りすぎになることがほとんどですので注意するようにしましょう。なお、クリーナーと取り出し口が大きく、一度に大量に出てしまうような容器の場合はハンドラップに移し替える等工夫するとちょうど良い量のみを取り出すことができます。
布に適切な量のクリーナーを取れたら、革靴をさすって汚れを落としていきます。その時に気を付けたいのは力加減になります。
クリーナーでは革の表面についた汚れや古いクリームを落とすことを目的としている為、ほとんど力は必要ありません。革に沿ってすすっと動かすだけで十分に汚れを落とすことができます。
一度で落ちないとしても複数回かけてふき取れば大抵の汚れを落とすことができます。全てを一度で落とし切ろうとすると失敗のもとになるので注意しましょう。
また、複数回かけて磨いても落ちない汚れの場合は、お手持ちのクリーナーでは落ちない汚れの可能性がありますので、その場合はあきらめたほうが賢明です。無理に汚れを落とそうとすると汚れている周囲の革が傷んでしまう可能性があるからです。
また、ふき取った後は必ず布の位置を変えてからクリーナーをとってふき取るようにしましょう。繰り返しになりますが、目的はクリーナーで浮いた汚れを布に移しとること。きれいな布でなければ汚れの成分が移ってくれません。
4分割法での磨きがクリーナーで失敗しないためのコツ。
先ほどの基本が理解できるとクリーナーでの失敗はほぼなくなりますが、さらに失敗しないようにするために行いたい工夫が4分割法になります。
4分割法とはその名の通り、革靴を4つに分割して磨いていく方法になります。分割した1つを磨く→次の部分を磨く...これを繰り返す方法です。私の場合は次のように分割しています。(雑ですいません...笑)
もちろん分割方法は革靴の種類や好みによって変えても問題ありません。
4分割法によるメリットは2つほどあり、
・磨き残しが起きにくい
・磨きすぎが起きにくい
となります。
まず磨き残しについてです。4分割法では1つの場所を磨いた後また別の場所を磨く...と言ったようにローテーションしていく方法になります。何も考えずに磨いている場合は場所によってクリームが落ちている部分とそうでない部分があったり、左右によって異なるケースがありますが、この場合はそのようなミスが起こりにくくなります。
次に、磨きすぎが起きにくいということ。クリーナーには水分を含んでいるため、ふき取った直後はその水分で表面が若干べたべたしていたり、つやが残っているように見えるのでふき取りが足りないと勘違いしてしまうケースがあります。
しかしそのような場合の中にはしっかり汚れや古いクリームが落ちている状態になっているケースも存在します。
4分割法では分割した部分をローテーションで磨いていくため、他の個所を磨いているうちに最初に磨いた部分は乾燥します。乾燥するとその段階での革の状態がわかりやすくなります。
まだふき取りが足りないようであればもう一度磨けばよいですし、そうでなければそこでストップすればよいでしょう。
まとめ
今回は革靴クリーナーの正しい使い方について紹介しましたが、いかがだったでしょうか。
私自身靴磨きを始めたときには鏡面磨きばかりしていてクリーナーの練習はそれほどできていなかった...!なんて体験があったからこそ、ぜひ皆さんにこの記事を共有した次第なのです。汚れがきちんと落とせているかどうか、見る人が見ればわかるもの。特に初心者は落とせてないことが多いですから...
正しくクリーナーを利用することができれば、効率よく栄養分を補給できるようになるだけでなく、クリーナーによるトラブルを回避することができます。
あれ、クリーナーの練習をきちんとしたことなかったな...と心当たりのあるかたは初心に立ち返ってクリーナーの練習から始めてみてはいかがでしょうか。
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